レヴォル戦線
「この作戦は地獄への片道切符だ」
ラルフ曹長はそう言って、続けた。
「しかし、私は愛する家族、兄弟、ひいては国民を守る為、命尽きるまで戦う所存だ。諸君、我々の犠牲は国民の未来であり、希望である」
先陣を切り敵陣へ突撃し、敵を殲滅しろ。とは言われたものの、我々の部隊は陽動部隊だ。圧倒的に戦力、装備が不足しており、作戦の完遂は極めて困難だった。まるで、ノルマンディー上陸作戦のようだった。作戦の決行日が命日になると皆が思ったに違いない。だが、誰も逃げ出そうとするものはいなかった。
「決戦の時が来たのだ! 奮起せよ! 最後まで立っていた者が英雄となり、第二師団は未来永劫語り継がれる事となるだろう。諸君のような素晴らしい男たちを率いて戦えたことを私は誇りに思っている。以上!」
ラルフ曹長の演説が終わり、各自が持ち場に戻る。バディのローレル一等兵が口を開いた。精悍な顔つき。短髪に刈り上げた黒髪の青年。
「最高の演説だったな。生を一番実感できるのは、戦場にいる時だけだ。戦場が墓場になるなら本望ってもんだ」
演説を聞いて感極まった様子のローレルはそう言って、笑みを浮かべた。生を実感できるのは戦場だけ。それがローレル一等兵の口癖だった。
「ローレル。俺は英雄になりたくて志願したんだよ」
そう言うと、ローレルは少し遠くを見るような目をして言った。
「そうか。俺もかつてはそうだった。英雄と呼ばれる男に出会うまではな」
「誰のことだ?」
「エリック一等軍曹だ」
そう言って、ローレルは右ポケットからタバコを取り出して火をつけた。
「あの、悪夢の突撃作戦を生き抜いた。激怒のエリック軍曹!? 」
「なろうとしてなれるもんじゃねえのさ。英雄ってのは」
ローレルはタバコを吹かしながら続ける。
「それは一体どういうことだ?」
「英雄気取りの馬鹿はうんざりする程見てきたが、みーんな遠いところに行っちまった」
ローレルは空を見上げて呟いた。
「二階級特進ってやつか」
「命をかけて誰かを救うってのはそういうことだ。その覚悟があるなら止めはしないさ」
「そうはならないさ」
「英雄気取りはみんなそう言うのさ」
ローレルはタバコを吹かせて続ける。
「ところで、ジャン。何で、軍隊なんかに志願したんだ?」
「孤児だったところをラルフ曹長に拾われたのさ」
「なるほどな。他に道がなかったってわけか」
「ああ。ローレルはどうなんだ?」
「俺も同じさ。我々はこの悲劇を二度と繰り返してはならない。将来再び起こることも。君は国民の未来であり、希望であるとかなんとか言われてね」
俺は頷いた。
「俺は復讐に燃えたよ。その結果がこの有り様だ」
ローレルは吸い殻を地面に捨て、踏み潰して言った。
「復讐だとか英雄だとかくだらねえ。一銭の金にもなりゃしねえ」
「ローレル、それでも、俺は英雄になりたいんだ」
そう言うと、ローレルはふっと笑って
「だよな。お前はそういうやつだ。けどな、死に急ぐんじゃねえぞ」
と言った。
「この作戦は地獄への片道切符だ」
ラルフ曹長はそう言って、続けた。
「しかし、私は愛する家族、兄弟、ひいては国民を守る為、命尽きるまで戦う所存だ。諸君、我々の犠牲は国民の未来であり、希望である」
先陣を切り敵陣へ突撃し、敵を殲滅しろ。とは言われたものの、我々の部隊は陽動部隊だ。圧倒的に戦力、装備が不足しており、作戦の完遂は極めて困難だった。まるで、ノルマンディー上陸作戦のようだった。作戦の決行日が命日になると皆が思ったに違いない。だが、誰も逃げ出そうとするものはいなかった。
「決戦の時が来たのだ! 奮起せよ! 最後まで立っていた者が英雄となり、第二師団は未来永劫語り継がれる事となるだろう。諸君のような素晴らしい男たちを率いて戦えたことを私は誇りに思っている。以上!」
ラルフ曹長の演説が終わり、各自が持ち場に戻る。バディのローレル一等兵が口を開いた。精悍な顔つき。短髪に刈り上げた黒髪の青年。
「最高の演説だったな。生を一番実感できるのは、戦場にいる時だけだ。戦場が墓場になるなら本望ってもんだ」
演説を聞いて感極まった様子のローレルはそう言って、笑みを浮かべた。生を実感できるのは戦場だけ。それがローレル一等兵の口癖だった。
「ローレル。俺は英雄になりたくて志願したんだよ」
そう言うと、ローレルは少し遠くを見るような目をして言った。
「そうか。俺もかつてはそうだった。英雄と呼ばれる男に出会うまではな」
「誰のことだ?」
「エリック一等軍曹だ」
そう言って、ローレルは右ポケットからタバコを取り出して火をつけた。
「あの、悪夢の突撃作戦を生き抜いた。激怒のエリック軍曹!? 」
「なろうとしてなれるもんじゃねえのさ。英雄ってのは」
ローレルはタバコを吹かしながら続ける。
「それは一体どういうことだ?」
「英雄気取りの馬鹿はうんざりする程見てきたが、みーんな遠いところに行っちまった」
ローレルは空を見上げて呟いた。
「二階級特進ってやつか」
「命をかけて誰かを救うってのはそういうことだ。その覚悟があるなら止めはしないさ」
「そうはならないさ」
「英雄気取りはみんなそう言うのさ」
ローレルはタバコを吹かせて続ける。
「ところで、ジャン。何で、軍隊なんかに志願したんだ?」
「孤児だったところをラルフ曹長に拾われたのさ」
「なるほどな。他に道がなかったってわけか」
「ああ。ローレルはどうなんだ?」
「俺も同じさ。我々はこの悲劇を二度と繰り返してはならない。将来再び起こることも。君は国民の未来であり、希望であるとかなんとか言われてね」
俺は頷いた。
「俺は復讐に燃えたよ。その結果がこの有り様だ」
ローレルは吸い殻を地面に捨て、踏み潰して言った。
「復讐だとか英雄だとかくだらねえ。一銭の金にもなりゃしねえ」
「ローレル、それでも、俺は英雄になりたいんだ」
そう言うと、ローレルはふっと笑って
「だよな。お前はそういうやつだ。けどな、死に急ぐんじゃねえぞ」
と言った。